さいたま市で藤島建設さんと高気密高断熱住宅を作る!

家づくりの備忘録 2022.2竣工 HEAT20G2(Ⅵ地域UA=0.45)・C=0.45 連絡先は「このブログについて」を見て下さい。

第76回 「建築家」の住宅~注文住宅に「当たり前」はない

歩兵です。

注文住宅を考える方は、外観デザインにこだわることも多いかと思います。ハウスメーカーでも外観に力を入れ、デザイナーズ住宅などとして売り出されることもありますが、中には、特定の建築家の作品に魅せられ、その建築家に自邸の設計を依頼したいという場合もあるでしょう。こういった設計事務所の中には、建築の表現や思想という側面を重視し、必ずしも「住まい」としての機能や社会的な潮流(たとえば、バリアフリーカーボンニュートラル対応等)に関心を寄せないものもあるようです。

ネットでもしばしば紹介される有名な住宅がさいたまにもあります。詳細はMy Modern Met建もの探訪TOTO通信の記事で紹介されているので、それぞれご参照下さい。施主の方のおひとり暮らしで、建築家に依頼して土地から探されたようで、大宮駅の近くにあります。路地の奥まった場所にあるため、Googleストリートビューではほんの少ししか見ることができません(近くまで行けば外観を見ることはできるでしょうが、住宅地にある一般個人宅なので直接訪問は控えたほうがよさそうです)。

TOTO通信の記事が詳しいのですが、この住宅は鉄骨造りで外周に壁も柱もなく、四方が全面ガラス張りになっています。4つの層に置かれた各部屋はぐるっと回る階段で接続されているなど複雑な構造となっています。そのため、同じ層の部屋を行き来するにも必ず階段を上って下りなければならず、動線を長くすることで実際よりも広がりが感じられるようにしたそうです。また、建築基準法をどうクリアしているのか分かりませんが基礎の高さがなく、地面と1階の高さが同じで、さらに寝室やバスルームは半地下になっています。橋梁工事とかを担う建設会社が作って当時坪単価154万円だそうですがすごいですね。

ということで、何を言いたいかお察しかもしれませんが、歩兵はこの住宅を見て「施主が注文住宅に求めるもの」の幅の広さを思い知ったわけです。つまりこのおうちの施主さんは自ら大枚をはたき、自ら望んでこういうおうちを建てられたわけですが、歩兵が住宅に求めるものとの果てしないギャップに驚嘆したのです。

「高気密・高断熱」住宅に関心がある方なら、多かれ少なかれ住宅の快適性はある程度当たり前のことだと考えているでしょう。しかし、ここで紹介したおうちのように、鉄骨造で全面ガラス張りにすれば事実上無断熱です。さいたまの気候では夏は酷暑、冬は極寒の家になる気がします(夏場なんか日射熱で駐車場に停めた自動車の中みたいな暑さにならないんでしょうか…)。普通のエアコンも使えなさそうですし、ちょっとやそっとの冷暖房では焼け石に水でしょうが、どういう空調管理をしているのか本当に不思議です。

またこのおうちの所在地は河川(排水路)のすぐ近くにあり、ハザードマップで見ると集中豪雨・洪水の発生時に浸水が想定されている地域にあたります。設計資料を見ても、住宅内への雨水流入防止や地下に位置する風呂・トイレの逆流防止がどのように考えられているか不明でぜひ知りたいところです。

生活のプライバシーなどはもとより考えていないのでしょうが、全面ガラス張りですからメンテナンスやお掃除も大変そうですし、コーキングなどが経年劣化すればあちらこちらから雨漏りもするでしょう。M7クラスの首都圏直下型地震が今後30年以内に70%の確率で起こるといわれていますが、壁も柱もないので大きな地震の際にどう耐えるのかも気にかかります。

階段をぐるぐる回らないと部屋の行き来ができないという動線設計もそうですが、おおよそ一般的な合理性・機能性・快適性・防災性というものを考慮した形跡が見当たらず、建築家の思想に全振りした結果できた住宅であるように思われます。

歩兵は「家は日常生活の場、住むものであって見るものではない」主義ですので、住まいに求めるものは何より機能です。ですので気密性・断熱性・計画換気・耐震性・耐久性・省エネを重視しますし、自分たちの生活スタイルに合わせた間取りや設備にこだわりました。外観デザインもまったく考慮しなかったわけではないのですが、外観を優先して機能を犠牲にすることはしませんでした。気分を変えたいときには旅行でデザイナーズホテルにでも泊まれば十分楽しめます。

しかし、食事の好みでも、味や満足感より健康に良いものを優先して選ぶ人もいれば、ラーメンや唐揚げなどの好物を食べることが至上の喜びだという人もいるでしょう。どちらがよいかという優劣があるものではないと思います。確かに、社会全体の持続可能な開発を考えるのならばカーボンニュートラルの実現に資するような高性能住宅を作ることが施主としてできる社会貢献なのかもしれません。一方で建築文化・思想の発展という価値もまったく否定することはできません。いずれにせよ、住まう当事者である施主の満足のために寄り添うことが建築家・設計士の仕事なのかもしれません。

長くなりましたが、注文住宅づくりに「当たり前」は多くありません。工務店ハウスメーカーの多くでは標準的な仕様は決まっているでしょうが、たたき台に過ぎません。工務店側からみても、施主のニーズは多種多様であり、必ずしもすべての施主が同じような家を望んでいるわけではないのです。そのため、施主の希望と工務店の提供する住宅しっかりマッチさせるためのコミュニケーションが重要です。特に藤島建設さんの場合は木造専門ということ以外自由度が非常に高く、何から何まで施主の要望に沿って家づくりを進めてくれます。施主は工務店任せにするのではなく、「こうしたい、ああしたい」という要望を積極的に伝え、どう実現するのがよいか一緒に考えてもらうのが後悔しない家づくりにつながるのではないかと思っています。

続きはまた。あんにょん。

追記:このおうちの建主は哲学専攻の東洋大学の先生とのことです。